カヤマのブログ

【20~1位】カヤマ・2023年まとめ(新旧 音楽、アニメ、映画、本etc...)

 第 20 位 
マルセル・プルースト失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへⅠ(岩波文庫)』

Year:1913
Origin:France
Label:岩波書店

 視覚・聴覚、現在・過去の記憶などを連想ゲーム的につなげていく冗長な文体がすごい。その思考の流れをたどることによって、読者はプルーストと同化できるのだ。また、女中フランソワーズや文学オタクの友人ブロックなど、優秀ながらどこか壊れている人間の姿を見るのが楽しい。

 とりあえず一巻だけ読んだ。全巻読破は……老後の楽しみにしておこっか。

 


 第 19 位 
スティーブン・スピルバーグ『激突!』

激突! (字幕版)

Year:1971
Origin:US
Label:Universal Television

 映画にとって、台詞も物語も決して必須ではない。トラックが90分間追いかけてくるだけでここまで楽しい。原初的快楽にあふれた作品だ。

 自動車って表情豊かなんだな。主人公の自動車は立派だがどこかくたびれていて、児童バスは黄色くはつらつとしていて、暴走タンクローリーはまがまがしく錆びついている。

 自動車は撮り方によって、人体の拡張道具にも、動物にも、自然災害にもなる。


 第 18 位 
蓮實重彦フーコードゥルーズデリダ講談社文芸文庫)』

Year:1978
Origin:Japan
Label:講談社

 あらゆる読書は不実なる反復。書かれた文章を読む行為それじたいにつきまとう不可能性や暴力性を、むしろ積極的に、未知の思考と出会う契機として言祝ぐ。めちゃくちゃ元気が出る本です。


 第 17 位 
Moodring『Your Light Fades Away』

YOUR LIGHT FADES AWAY - Single

YOUR LIGHT FADES AWAY - Single

  • Moodring
  • メタル
  • ¥458


Year:2023
Origin:US
Label:UNFD

 2023年のメタルコア系では最高のリリース。

 かつてDeftonesは、ニューメタルにトリップホップシューゲイザーの要素を導入した。より平易にいえば、90年代イギリス・アンダーグラウンド・シーンの酩酊感を北米に輸入したのだ。そうしてやがて最新のテクノロジーを活用した重厚感を持ちながらも、汗臭いマッチョイズムからも距離を取った、メランコリックなヘヴィ・ミュージックのスタイルを発明する。

 10年代後期からは、その意匠を継ぐ者が世界各国から現れた。メタルコアに電子的/空間的アプローチを加えることにより、音楽性を拡張せんとする試みが広くうかがえるようになったのだ。若手はもちろん、シーンの中堅、重鎮バンドもこの潮流に同調していく。例として、アメリカはUnderoath、イギリスのLoatheやオーストラリアのVoid of Vision、Thornhill、Northlaneなどの名を挙げられるだろう。

 Moodringもその潮流の最前線で活動する者のひとつである。そして本作のリリースによって、さらに一歩抜きん出た存在になったといえるだろう。特に1曲目『SHI=DEATH』の激烈さと来たら。極悪な多弦ギターの重低音と、ドラムンベースをシームレスに接続するという発想は前代未聞。

 

 第 16 位 
ジュディス・バトラージェンダー・トラブル―フェミニズムアイデンティティの攪乱』

Year:1990
Origin:US
Label:青土社

 現代フェミニズムにおける古典的文献だが、もちろんそれにとどまらない。あらゆる先入観の根源を探り、権力のメカニズムを逆手に取り、それを攪乱(脱構築)していくための戦術書。


 第 15 位 
C.O.S.A.『Chiryu-Yonkers』


Year:2015
Origin:Japan
Label: - 

 歌う、叫ぶではなく、吐き捨てていく言葉。


 第 14 位 
福尾匠『言葉と物(文芸誌『群像』連載)』

Year:2023
Origin:Japan
Label:講談社

 素朴な感想をインターネット上に書くことのむずかしさについて悩み続ける連載。すべての言葉は発した途端にパフォーマティヴな意味に絡め取られてしまい、字義通り読まれない。いかなる言葉も誰がいつ何を言ったか、というメタな視点で受け取られてしまう。では、字義通りの思考の積み重ね=批評を封殺されてしまうこの現状に風穴を開けることはできるのか?

 また、テクストの書かれ方それじたいにも影響を受けた。彼は決して文章を飾り立てることなどしない。日記も、エッセイも、批評も、同一の文体できわめて明快に書く。その点においては、やはり東浩紀以降の問題意識を共有した書き手といえるだろう(実際、本連載も東浩紀「なんとなく、考える」の再考から始まっている)。

 だが彼独自の文体のおそろしさはすでに現れている。素朴な記述を描写が続いたかと思ったら、突然予期せぬかたちで思考がコロコロ進んでいくのだ。何かしらの文章を日常的に書いている者なら知っているだろう、議論を進めるときはぼくたちはついつい接続詞を並べて助走をつけるような動作をしてしまうと。そして、それが文章のリズムを硬直化してしまうと。彼の文章にはそうした停滞がほとんどない。日常のできごとがスルッと哲学的な議論につながれ、それがまたもやスルッと日常に戻ってくる。そのプレーンすぎるがゆえに先の読めない文体に、独特のスリリングさがあるのだ。

 『眼がスクリーンになるとき』も昨年読んで、おもしろかったが後半は無学ゆえにちんぷんかんぷんになってしまった覚えがある。今年は再読したい。


 第 13 位 
ル・クレジオ『物質的恍惚(岩波文庫)』

Year:1967
Origin:France
Label:岩波書店

 ドゥルーズフーコークロソウスキーなどを手がけた翻訳者:豊崎光一が目的で触れた。ル・クレジオがいかに偉大かもまったく知らぬままページを開いてしまったが、それが大当たり! 理解力が低いので潔く読解を諦め、怒涛の文体に巻き込まれるようにして読了した。この「意味」よりも「言葉の連なりの心地良さ」が先行するような読書体験が楽しくなって、のちに高橋源一郎への耽溺にも繋がった。


 第 12 位 
James Blake『Playing Robots into Heaven』



Year:2023
Origin:UK
Label:Republic/Polydor

 これ聴いて深夜徘徊したい。


 第 11 位 
Holding Absence『The Noble Art of Self Destruction』

The Noble Art Of Self Destruction

The Noble Art Of Self Destruction

  • Holding Absence
  • ロック
  • ¥1681


Year:2023
Origin:UK
Label:SharpTone 

 もしも00年代の北米と、90年代のイギリスのセンチメンタルなロックが出会ってしまったら? 彼らの音楽はそのIFストーリーを見せてくれる。

 彼らはデビュー当時から前者(スクリーモポスト・ハードコア)と後者(シューゲイザー)の融合を試みてきた。本作もこれまでの方向性は大きく変えず、みずからのスタイルを研鑽している。だがマンネリズムなどとは無縁。むしろ、さらに眩しくポップになっていて驚かざるを得ない!

 前述のとおり、彼らの音楽は多国籍的であり、その意味では本来複雑ともいえる成り立ちをしている。だが、もともと借り物だったそれらのジャンルは血肉化され、今では澄みきった純粋さすら感じさせる。そして、「センチメンタルなロック・ミュージックの振興アクト」として、より大きなフィールドで活躍できるポテンシャルを獲得した。

 具体的にいえば、もう彼らの比較対象は、かつてのシーンの重鎮などではない。Yungblud、WILLOW、Lil LotusやPale Wavesと渡り合い、共闘すべき存在なのだ。

 というわけで、いつか来日してくれることを強く望もう。願うだけタダだからいってしまえば、サマーソニックのマウンテンステージで彼らを観たい。


 第 10 位 
デヴィッド・フィンチャーソーシャル・ネットワーク

ソーシャル・ネットワーク

Year:2010
Origin:US
Label:コロンビア ピクチャーズ

 オタクはマジ素早い。比喩ではなく物理的に。そんな彼らの喋り方や挙動、パソコン操作をこれまたスピーディーな編集でつなげ、エレクトロニックな劇伴を添えただけで最高のエンターテインメント作品になるなんて、世紀の大発見じゃないか?
​​ 主演:ジェシー・アイゼンバーグのクレイジーな演技と、友人役:アンドリュー・ガーフィールドの等身大の青年ぽい可愛さのコントラストがまたいい。物語の後半からは狡猾なペテン師役を演じるジャスティン・ティンバーレイクも加わり、しっちゃかめっちゃかに。俳優3人の演技対決が堪能できるという意味では、題材や作風は違えどマイケル・マン『ヒート』にも通じる緊迫感にあふれた一作だ。挙動不審な人間って傍から見るとこんなにおもしろいと示唆していて、なんだか勇気をもらえた気がする。
​​
​​ それから、ルサンチマンを根源としたミソジニーも隠さず、どぎつく露悪的に描いており、それもグッド。本作で男性社会のくだらなさを書き尽くしたからこそ、『ドラゴンタトゥーの女』『ゴーン・ガール』などのフェミニズム要素のある作品を後にとれたのだろう。フィンチャー監督って一貫して、ホモソーシャルのとりわけ油ぎってギトギトしたキモい澱みの部分に対して愛憎があるね。嫌悪感があるだけじゃなくて、どこか憧れがなければ、こんなユーモラスに撮れないよ。


 第 9 位 
Watson『Soul Quake

Soul Quake

Soul Quake

  • Watson
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2444


Year:2023
Origin:Japan
Label: - 

 かつての失態や三大欲求も含めて、すべてを明け透けかつ直截的に言い切ってしまう。それがだらしなく見えないのは、特徴的な声質と引き締まった早口フローがあるから。

 ふだんの生活中、事あるごとに彼の歌詞を口ずさんでしまうくらいには好きだった。


 第 8 位 
ヴァルター・ベンヤミン『複製技術時代の芸術(『ベンヤミン・アンソロジー』所収)』

Year:1936
Origin:Germany
Label:河出書房新社

 20世紀以降における芸術論の古典。だが、ぜったいに基礎教養だからと、テキトーに確認するような態度で読んではならない。昨年にも読んで、当時は「読みやすい」なんていったが、それは単なる虚栄。まったくもって嘘だ。ぶっちゃけ何度読んでもわからない。というのも、本作の内容は「アウラの喪失」「視覚的無意識の発見」などとかんたんに要約できるわけがないからだ。

 本稿には一貫して、マルクス主義/反ファシズムの問題意識が通底している。「アウラ」概念も、むろん彼がもっていた政治思想を理論化するべく編み出されたものだ。加えて、写真とダダイズムがなぜ同一視されるかについても考えなければならない。プレヒトの演劇理論からの影響も加味する必要がある。つまりは、じっくり読んでみると、議論の飛躍や裏に隠された意図があまりに多すぎるのだ。だから、彼の理論を援用するならば、せめてその裏に眠っている革命性に自覚的でなければならない。翻っていえば、そのアブナさを自覚したうえで読み返すと、どんどん新たな視点が湧き出てきておもしろい。

 本稿は短い論考だが、おそらく今後も何十回と読み返すことになるだろう。本稿へのスタンスや扱い方を明確にするのも、当面の目標のひとつだ。


 第 7 位 
高橋源一郎『さようなら、ギャングたち(講談社文芸文庫)』

Year:1982
Origin:Japan
Label:講談社

 街中にあるビデオカメラを片っ端から盗んで、あらゆるひとびとが収めたホームビデオをでたらめにモンタージュして、一本のフィルムを作り、それを眼ではなく脳へと直接流し込んでいるような読書体験。何が哀しいんだかわからないが、泣いている。


 第 6 位 
東浩紀『郵便的不安たち』

Year:1999
Origin:Japan
Label:朝日新聞出版

 現代日本を代表する批評家・哲学者の第一批評集。初期の彼は現代思想などから影響を受けたアカデミックな批評を志向する雑誌『批評空間』のコミュニティにいた。だが、やがてそこの閉鎖性に辟易し、ひとり離脱しようと試みる。本書はその頃に書かれたアニメ論や書評などが所収されている。

 彼は日本社会における文学の失墜と、それにともなう文学的な批評スタイルの失墜を、まず第一の問題意識としている。つまりは、蓮實重彦のような文体でのパフォーマンスはもはや通用しないと指摘しているのだ。それゆえに、彼は可能なかぎり明快かつ論理的に書く。加えて、読書体験=理路を追うことに快楽が宿るよう、全体構成もポップに工夫を凝らす。その試行錯誤も相まって、初期作品ながらすでにリーダビリティの高い文章を並べている。

 本書は二度文庫化されており、そのたびに収録内容を微妙に変えている。だが、単行本版のほうがむしろ90年代当時の雰囲気が反映されており、意外な発見が多い。特に、書評での惣流・アスカ・ラングレーとの一人芝居ワロタ。彼ほどの知識人でも、そういう二次創作やりたくなったりするんだな。

 正直、彼と美的感覚において隔たりはある。すべての主張を支持できるわけでもない。彼がいちばん好きな作家かと問われれば、どうしても首肯できない。なのに、ついつい本を買って読んでしまう。発言が無性に気になってしまうのだ。なぜなら、どうすれば「ものを論じる」という行為を「学問」でも「宗教」でもなく、「商品」として流通させることができるか、彼はつねに考え続けているから。そして、「時代に応じた文体」をその時期ごとに発明しているからだ。


 第 5 位 
ドゥニ・ヴィルヌーヴ『灼熱の魂』

灼熱の魂 (字幕版)

Year:2010
Origin:Canada
Label:micro_scope

 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の出世作。やはり初期作品というだけあってか、今は亡き名劇判作曲家ヨハン・ヨハンソンと出会って以降の作品と比べて、映像や音自体の粗さは否めない。だが、衝撃的なシーンがそこかしこに散りばめられており、鑑賞後はすさまじく鈍重な後味を残す。

 主人公姉弟のふたりは、亡くなった母の遺言書にしたがって、父と兄の行方を探していく。だがその過程で、あまりにも酷な事実を知ることになる……。たしかに母の生涯は壮絶としかいいようがないが、悲劇とは決していいたくない。本作は確実に未来へと向けられている。

 その後のヴィルヌーヴ監督のモチーフ「母」「砂漠」などがうかがえたのも気になった。


 第 4 位 
中原昌也中原昌也 作業日誌 2004→2007』

Year:2008
Origin:Japan
Label:boid

 芸術作品を買っても、観ても、書いても、幸せにならない。ただかったりぃ日常がはてしなく続くだけ。でも生きるには金を稼いだり、誰かに会わなきゃいけない。本書はそうしたリアリティの最中でひねりだされた排泄物にほかならない。マジでカルチャー関連の固有名詞と、カネの悩みと、恨みつらみしか書いてない。

 悲しいかな、本人が苦しめば苦しむほど、文章は切れ味鋭く滑稽になっていく。筆者の状況に関係なく、読者からすればすべてのできごとは喜劇になってしまう。

 本書の影響で、ぼくも今年8月から日記を書き始めた。本来発信されるべきでない無意識をすべて成文化しては、気が向いたら誰でも読める場所にひたすら格納している。

 他人なんて、きみに対して絶対的に傲慢だ。そして無関心だ。どんな悩みがあるとか、誰に嫌われているとか、マジでいっさい関心を持ってくれない。翻っていえば、日記はどんな内容が書かれても自分の二次創作、フィクションなのだ。日記、すなわち一人称視点の世界像をひたすら文章化していくことの救いはそこにあるんじゃないかと思う。

 


 第 3 位 
ジル・ドゥルーズ×フェリックス・ガタリ千のプラトー ――資本主義と分裂症(河出文庫)』

Year:1980
Origin:France
Label:河出書房新社

 論旨はまったく理解できていないし、解釈もあらゆる解説書頼みだ。でも、めちゃくちゃ元気出た。人間の根源的な衝動を「戦争機械」と名づけ、両義性のあるものと見なす視点にやたら影響を受けた。なんとなく、ぼくは本書を倫理の書として読んでしまうな。


 第 2 位 
nothing, nowhere『VOID ETERNAL』

VOID ETERNAL

VOID ETERNAL



Year:2023
Origin:US
Label:Fueled by Ramen 

 TYOSiN、Lil Lotusなどの後に続き、エモ・ラップ・シーンの重鎮である彼も、満を持して生バンド編成でアルバムを発表した。それも、2000年代中盤にアメリカで流行したロック(スクリーモポスト・ハードコア)をそのまんま現代に蘇らせたようなスタイルで! 透き通るようなメロディーや甲高く響くスクリーム、スタジアムをまるごと揺らすようなミドルテンポはまさに「あのころ」の記憶どおりだ。

 たしかにサウンドプロダクションやドラム・セクションなど、時代に応じたアップデートも随所に見られる。けれども、主たるコンセプトはゼロ年代にあった情景の再現。ゆえに、すべての瞬間が「懐かしい」。にもかかわらず、不思議と「旧い」などとは感じさせない。

 なぜなら、本作は新旧様々なアーティストを客演に起用しており、おかげで色彩豊かな世界観となっているからだ。さながら幕の内弁当か、あるいは架空の音楽フェスのハイライトを眺めている気分にさせていくれる。本作は、Y2Kゼロ年代カルチャー・リバイバル)は過去の単なる反復ではなく、現在進行形で動いているカルチャーだと、まことしやかに証明してくれるのだ。 

 ノスタルジーが喚起するのは、決して自閉的な快楽ばかりではない。それは時として、20年間離れた世代をつなぐ媒介になりえるのだ。

 若手の登場を歓迎しながら、漸進的に変化しながら進んでいく文化がもつ、正しい意味での「保守」性を愛したい。


 第 1 位 
片渕須直『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』

この世界の(さらにいくつもの)片隅に

Year:2019
Origin:Japan
Label:MAPPA

 戦争だろうが日常は残酷にも進んでしまう。そこに生活は必ずある。一見するだけでは正直感想がまとまらない。だが、「書く/描く」という演出の多さや、識字能力のない白木リンさんの存在が気になる。