カヤマのブログ

【No.61〜80】カヤマ・2022年遭遇作品100(新〜旧作 音楽/映画/書籍etc...)

61. MJ Cole - Sincere

Sincere (Deluxe)

Sincere (Deluxe)

  • MJコール
  • ダンス
  • ¥2343

Release: 2000

Origin: UK

Label: Talkin' Loud

日本出身ラッパー:JUBEEの代表曲『Joyride』が素晴らしいUKガラージ/2stepナンバーだったことから、同ジャンルの古典たる本作にアクセスした。00年代初頭の最新ビートはこれであると知ると、当時の音楽シーンへの解像度がググっと増した。2003年時点で日本にこのヴァイブスを輸入してみせたm-floって、マジすごかったんだな。

 

62. Moodring - Stargazer

Stargazer

Stargazer

  • Moodring
  • メタル
  • ¥1222

Release: 2022

Origin: US

Label: UNFD

かつてDeftonesは、ニューメタルの重厚なリズム・アプローチと、ニューウェーヴアンビエントの空間表現を融合させることで、独特な酩酊感を孕んだヘヴィ・サウンドを創造した。彼等の3rd『White Pony』はUS/UKロック・シーンそれぞれの歴史が幸福な出会いを果たした名盤といっていいだろう。そして、近年は彼等の功績が見直され、その意匠を継ぐ若手バンドが多数登場しているのだが、彼等MoodringはDeftonesフォロワーでもかなりの注目株だ。

とにかく歌メロが強力でキャッチー!退廃的世界観の構築に執心するあまり難解な音像となってしまう者が少ない中、この音響表現と聴きやすさの匙加減には感服する。まだまだ駆け出しなので、さらなる個性の確立と躍進に期待しよう。

 

63. 無印良品 - 国産野菜の生姜の棒餃子

Origin: Japan

Label: 株式会社良品計画

もしPitchforkが冷凍食品批評サイトならば、8.7点は固い。化学調味料が無いが味はそこそこ濃いので、ポン酢や醤油要らずでそのままいただける。この一年でたぶん4袋・通算で10袋分は食べてる。

 

64. Mura Masa - Demon Time

demon time

demon time

  • Mura Masa
  • エレクトロニック
  • ¥1935

Release: 2022

Origin: UK

Label: Polydor/Anchor Point

エモ・ラップからグライム、レゲトンまで幅広いトラックメイキング!起用アーティストたちの選出も冴えており、現ラップ・シーンの見本市として素晴らしい一枚だ。tohjiとPa Salieuのフローの特異性を再確認するキッカケにもなった。

 

65. My Ticket Home - Strangers Only

Strangers Only

Strangers Only

  • My Ticket Home
  • ロック
  • ¥1630

Release: 2013

Origin: US

Label: Machine Shop

ニューメタルコア(ニューメタル・リバイバル)の先駆的レコード。かといって、BMTHやLoatheなど近年活躍しているバンドのような新奇性は薄く、愚直なまでにオーセンティックを貫いてみせる。メンバー全員が鈍い打撃音と化す!冷却保存された世紀末のグルーヴは、ストリート・キッズ自身の手によって息を吹き返したのだ。昨今のニューメタル再興は何者かが作為的に仕掛けたものではなく、ごく素朴にみんなSlipknotKornを敬愛していた結果なのだと、本作を聴けば合点がいくはず。

 

66. ナ・ホンジン - 哭声/コクソン

Release: 2016

Origin: Korea

「最高におもしろくて最高につらい韓国映画なのでおすすめします!」

「哭声 コクソンだけに酷(こく)ってコト!?」

「………………。」

という友人からの推薦をキッカケに鑑賞にいたったわけだが、まことに驚愕した。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『プリズナーズ』を観た瞬間の衝撃をふたたび味わうことになるとは。

キリスト教シャーマニズム、西洋医学の衝突。田舎ゆえの情報伝達の速さと、それゆえに募る猜疑心。サイコ・サスペンス×ホラーを折衷した一級品のエンタメ映画でありながら、「韓国」という国家全体が孕んだ歪みを今一度問う社会批評としても鋭い。同ジャンルの代表作『羊たちの沈黙』『セブン』『ミスティック・リバー』などと同列に語れる「傑作」ではなかろうか。

脚本も素晴らしいのだが、演出も負けじと強烈だ。山村地域の生い茂る自然や、生活感を感じさせる薄汚れた建物内など、日常世界は緑色~茶色~灰色の鈍い自然色がメイン。深夜や閉所の暗闇も印象的。そこに灯る炎や鮮血の赤~黄色が、なんと残酷に映えることか!また、ただでさえおそろしいのに中盤以降は殺人事件に宗教的なモチーフが絡んでくることで、さらに狂気はエスカレート。物理/倫理的恐怖が混濁しながら凄惨な絵面がひたすらつながっていく……。2ジャンルのミクスチャーは物語を多層的にするだけじゃなく、恐怖描写にも多層性をもたらしているのだ。

僕は「考察」「謎解き」って議論がどんどん内側に籠ってしまう傾向があるからあんまり好きじゃないけど、本作は幾度も反芻する意義の深い一作であると思う。優れた作品は現代社会の病理をまざまざと剔抉する。「考察」「謎解き」がそのまま現代社会への思索になる。というわけで僕も5年後くらいに、もう少し賢明になってから再び観ようと心に決めた。

 

67. ニック・パーク & スティーヴ・ボックス - ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!

Release: 2005

Origin: UK

クレイアニメ」という外部から、アクション~ホラー~怪獣映画などの娯楽映画史を逆照射する、さながら幕の内弁当的大盤振る舞い。

 

68. Nils Frahm - Music for Animals

Music for Animals

Music for Animals

Release: 2022

Origin: German

Label: Leiter

装飾の浅く静謐なポスト・クラシカル/アンビエントが2時間半のドカ盛りサイズで堪能できる。読書用BGMとして重宝しました。

 

69. Oceans Ate Alaska - Disparity

Disparity

Disparity

  • Oceans Ate Alaska
  • メタル
  • ¥1935

Release: 2022

Origin: UK

Label: Fearless

演奏技術に任せてズガガズガガと精密機械じみたリズムを刻みつつも、エモーショナルに伸びるメロディーを要所要所で聴かせる。10年代初頭、雨後の筍のように登場した技巧派メタルコア・バンドのなかでも、特にリズム・アプローチが個性的なバンドだ。分厚い重低音の壁をつくるのではなく、スタッカートでちぎれたフレーズを大量に束ねてグルーヴを生み出す。Djentムーヴメントに同調しながらも似て異なる姿勢。さすが、アングラ・ダンスミュージック大国イギリスらしいなぁと感心せざるを得ない。

2曲目『Nova』・3曲目『Metamorph』・5曲目『Sol』などで窺えるように、昨今のヒップホップやニューメタル・リバイバルへの応答を試みている。かといって音数を絞り、そのまま同ジャンルの方法論を模倣するわけではない。相変わらず精密機械じみたリズムを刻みながらも、現代のBPMに適したアンサンブルを一から模索している。

Primal ScreamArctic Monkeysが物語るとおり、これまでのUKロックは同郷のクラブミュージックに応答する形で、バンド・アンサンブルを更新してきた。このアルバムも「メタルコア」のみではなく、「UKロックの伝統」として聴いてみると、また違った発見があるはずだ。

 

70. 小田香 - 鉱 ARAGANE

Release: 2015

Origin: Bosna i Hercegovina/Japan

「観たくて仕方がないのにソフト&配信化しないのは何故!?」と困惑していたが、映画館を訪れてやっと合点がいった。これは映画館という空間で初めて効力を持つ。

ベキキキキィ、ガゴゴゴゴォ、と終始響く工業機械のインダストリアル・サウンド。旋回する車輪やチェーン。閉鎖空間に差し込む外光、ヘッドライト。定点カメラの前で蠢く労働者達が、まるで僕達の現身のようにおもえたのは錯覚じゃあないだろう。僕達も彼等と同様に、暗闇と轟音に身を投じる匿名者であるし、彼等も僕達をじっと観ている(ヘッドライトが視線を実体化させる)。小田香監督の師範たるタル・ベーラ監督を彷彿とさせるロング・ショットが、時間感覚をぐいぐい引き伸ばしてゆく。しかし緊張感もいっしょに持続されゆく――スクリーンに映された彼等の視線がつねに返ってくるからだ。

「ドキュメンタリー」ってなんだろう。労働者達の事情や行く末を逐一教えてはくれないし、一面的に読める社会的メッセージも訴えてはこない。とある空間にカメラがただそのままどかんと置かれ、それゆえに観る者/観られる者の境界を融和させてしまう。映画初心者の僕がこんなこと言うのも差し出がましいが、まるでリュミエール兄弟の時代の原始的な映画の在り方がそのまま現代に持ち込まれたような一作だとおもった。機会があれば必ずまた足を運ぼう――暗闇と轟音の中に。

 

71. 大江健三郎 - 万延元年のフットボール

Release: 1967

Origin: Japan

Label: 講談社文芸文庫

すげぇ文体だなと読み進めてたら突然BL小説みてえになって、しかもイイ話風になって終わった。なんだこれは。冷徹に乾いた筆跡から血液の生暖かさや叙情性が思いがけず染み出してくる。三島がヴィジュアル系だとしたら、大江はハードコア・パンクだ。

 

72. 岡田拓郎 - Betsu No Jikan

Release: 2022

Origin: Japan

Label: Newhere

なんじゃこりゃあ!元々、彼は日本のNeutral Milk HotelWilco、Jim O'Rourkeのような存在だと思っていた。フォークミュージックやクラシックロックの造詣が深いながらも、それをそのままアウトプットせず、現代的な音響感をもって再解釈し続けているという意味において、だ。しかし、本作を再生すると、金物やキーボードの不穏なさざめき、サックスの音色がまず聞こえる。いわゆる「スピリチュアル・ジャズ」じゃないか!

アコースティック・ギターから、電子音響、即興演奏まであらゆる手段を駆使して、繊細な音粒をひとつずつ重ねてゆく。まるで木々の揺れ動き、河の流れのような、大自然の流動的な美を描写しているかのようだ!このサウンドはたとえば、Drag City Records・ECM Records・ACT Musicからリリースされてもおかしくない。邦楽ロック?音響派?現代ジャズ?否、国籍やジャンルなど問わぬ大傑作!「いまバンドサウンドには何ができるのか」のひとつの答えだと思います。

 

73. オーソン・ウェルズ - 黒い罠

Release: 1958

Origin: US

噂には聞いていたが、冒頭からカマされる超絶ロング・ショットと、さっそく現れるオーソン・ウェルズの圧倒的な存在感に一撃ノックアウト!執拗に強調される斜め方向のアングル・運動(車とか人間の煽りとか)がズバズバとハイテンポで連結され、空間が次々と切り裂かれていく。

 

74. Perfume Genius - Ugly Season

Release: 2022

Origin: US

Label: Matador

Son Luxの歴史的傑作アルバムシリーズ『Tomorrows』にも通じる衝撃。元来から彼の内にあった現代音楽/室内楽アンビエントの素養が一挙に花開き、音響実験の限りを尽くすエクスペリメンタル・ポップ・ミュージック。嫋やかなファルセット・ボイスが荘厳な響きに溶け合い、空間に拡散していく瞬間の享楽感。

 

75. ピエル・パオロ・パゾリーニ - 奇跡の丘

Release: 1964

Origin: Itary/France

イタリア出身の映画監督ピエル・パオロ・パゾリーニが「マタイによる福音書」に基づき、イエス・キリストの生涯を描く137分間。

このフィルムは神の子の映像化という、あわや冒涜に触れかねない試みを、イタリア映画らしい粘り気のある演出法で具現化せしめている。深い陰影とザラついた画面。独特な編集リズム。あらゆる人間の所作を省略し、深い影の落ちた表情や黒く澄んだ瞳を凝視する。

どのように再現したのかわからない古代エルサレムの街並みや衣装、古楽~教会音楽のなかにブルース等のギターミュージックが捻じ込まれている不可解さ、パゾリーニ監督自身の宗教観や制作逸話(無神論者らしいとは噂に聞くが……)などなど疑問も残るが、理解が及ぶべくもない。

一般的に「まぁまぁ良い芸術映画」程度の評価らしいのだが、僕は『フランク・キャプラ - 素晴らしき哉、人生!』に次いで、この生涯で最も驚愕的な映画体験になった。おそらく、僕の感性がクリスチャン的美意識と親和性が高いのだろうが、その因果関係は追々突き止めるとしよう(一応無宗教者なんだけれどもなぁ……)。

 

76. レイチェル・ギーザ - ボーイズ: 男の子はなぜ「男らしく」育つのか

Release: 2018/2019

Origin: Canada

Label: DU BOOKS

男らしさから逸脱した男性は「敗北者」の烙印を押され、端に追いやられる――マチズモの同調圧力を「マン・ボックス」と名付け、女性の視点からその病理を解き明かす一冊。フェミニズム運動は女性のみならず、男性社会の病理を治す処方箋となり得るのだと、優しく証明してくれる一冊。「こういう生きづらさに理解を示してくれて、言語化してくれる人がいるんだ!」と、一読者としても救われた思いになりました。本書に寄せられた書評・読者感想などの声にも救われた。

 

77. リドリー・スコット - テルマ&ルイーズ

Release: 1991

Origin: US

リドリー・スコット=何撮っても野暮ったい「神話」になっちゃう……という謎の偏見を持っていたが、仰々しい演出の無い、等身大の体温が籠もったロードムービーも撮れるのだな。フェミニズムや犯罪の連鎖性が題材ということで一男性としては胸の痛むシーンも随所にちらほら。しかし意外だったのは、二人の主人公(特にテルマ)も彼女達なりのダメさを抱えていたところ。一人は枷を外し続け、一人は徐々に得ていくことで、幸せを得ていく対称性も良い。ブラピも脇役ながら圧倒的な存在感。若いなー。

 

78. Rina Sawayama - SAWAYAMA

Release: 2020

Origin: UK

Label: Dirty Hit

SUMMER SONIC 2022にてヘッドライナーに勝るとも劣らないパフォーマンスを披露し、2ndアルバム『Hold the Girl』をリリース。今年の音楽シーンの主人公は彼女であったと疑う余地は無いだろう。しかし僕は1stアルバムである本作をあらためて評価したいと考えている。ギタリストとドラマーを携えた彼女のライブは、音源よりも遥かに「ハードロック/ヘヴィメタル」の色彩が強調されていたからだ。

ヘヴィメタルを介したジェンダー・エンパワーメント。主張は最大限支持するということを前提として、このムーヴメントに一リスナーとして(というよりもマジョリティ男性として?)、どう応答すべきかは決めあぐねている。しかし、それを考える足掛かりとしても、皆も本作を聴くところからまず始めないか。

 

79. Ringo Deathstarr - RINGO DEATHSTARR

Release: 2020

Origin: US

Label: Club AC30/Vinyl Junkie

ジャパンツアーでなぜか北海道旭川市に来てくれるという謎ムーヴ(ラーメン青葉でも食いたかったのか?)に乗じて、彼等のライブを拝見した。ジャンル区分上では「シューゲイザー」という括りになっているが、その地を這いずるようなリフは、ポスト・ハードコアストーナー・ロックなどの「90年代アメリカ」の情景も想起させる。90年代US/UKロックの叡智を結集させたような、含蓄を感じさせる爆音。

 

80. 佐々木敦 - (ブレインズ叢書1) 「批評」とは何か? 批評家養成ギブス

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Release: 2008

Origin: Japan

Label: メディア総合研究所

「ゲンロン批評再生塾」の前身となるカルチャースクール企画「批評家養成ギブス」の講義録。音楽・映画・文芸それぞれの批評の基礎を一から紐解きながらも、多種多様なものの共通点を「貫通」せよという著者の批評観も強調する。膨大な作品消費量に裏打ちされた情報整理能力と、一人の教育者らしい温和ながらも啓蒙的な口調が重なることで、なんだか全体としてあたたかい雰囲気。著者がジャンル・ガイド的な書籍を何冊も執筆できてしまう理由はこれなのかと妙に納得できてしまう。『ニッポンの思想』『ニッポンの音楽』『ニッポンの文学』『批評時空間』……。今年は佐々木敦先生にほんとうにお世話になりました。

 

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