第 40 位
Overmono『Good Lies』
Year:2023
Origin:UK
Label:XL
シンプルで耳心地がよく、ツルっとしたビートから感じられる、UKクラブミュージックの長い歴史。こういう音楽性だからてっきりロンドン出身で、幼いころからクラブ通いしまくってる~みたいな成り立ちなのかと思ってたら、ウェールズ出身なのに驚いた。
第 39 位
蓮實重彦『物語批判序説(講談社文芸文庫)』
Year:1985
Origin:Japan
Label:講談社
フランス文学者フローベールの読解を通して、近代以降の社会の病を解き明かしていく。あらゆる物語は、「終わる」という危機感が共有されることによりむしろ持続されていく。
物語批判は物語拒否ではないのが重要。むしろ物語という虚構に乗せられてみる態度で。
第 38 位
OZROSAURUS『Not Legend』
Year:2023
Origin:Japan
Label:All My Homies
第 37 位
天竜川ナコン『縛り旅3』
Year:2023
Origin:Japan
第 36 位
Kamui『RAFRAGE』
Year:2023
Origin:Japan
Label: -
第 35 位
フェルナンド・メイレレス『シティ・オブ・ゴッド』
Year:2002
Origin:Brasil
Label:O2 Filmes
第 34 位
エドガー・ライト『ラストナイト・イン・ソーホー』
Year:2021
Origin:UK
Label:Focus Features
女性を周縁化して奉仕を迫る家父長制も、それをそのままひっくり返した男性嫌悪も、いずれも暴力。エドガー・ライトらしいコミカルで楽しい作品ながら、きわめて倫理的なテーマを扱っているのに驚いた。
第 33 位
アラン・ロブ=グリエ『ヨーロッパ横断特急』
Year:1966
Origin:France
Label:Como Films
第 32 位
Lil Soft Tennis『i have a wing』
Year:2023
Origin:Japan
Label: -
彼の言語感覚にシンパシーを受けつづける一年間だった。
「ビビる食事六万 ロックマンエグゼ 少し前の俺なら三刀流ゾロ 今は独占中継 きみはDAZN 俺はロン・ウィズリー 君はエマ・ワトソン」(『VIP』)
第 31 位
セリーヌ・シアマ『秘密の森の、その向こう』
Year:2021
Origin:France
Label:Lilies Films
母親とは第一の他者。もしその母と、対等な関係で友人になれたとしたら?
第 30 位
Tim Hecker『No Highs』
Year:2023
Origin:Canada
Label:kranky
Year:2018
Origin:Japan
Label:京都アニメーション
かねてより話題であらゆるひとから勧められていたけれど、なぜか2023年にようやく観る気が起きた。ジブリの青春映画を観たくなった。
第 28 位
トマス・ヴィンターベア『アナザーラウンド』
Year:2020
Origin:Denmark
Label:Zentropa Entertainments
適度に飲酒しながら生活すればすべてがうまくいくのでは、なんて誰もが一度は妄想するであろうバカげたアイディアに真正面から挑む。てっきり出オチかと思っていたが、いざ蓋を開けてみれば、ゆるやかに人生が下降していく中年男性特有の葛藤を丁寧に描いており、「人生」そのものだった。引用されるキルケゴール……。
第 27 位
moreru『呪詛告白初恋そして世界』
Year:2023
Origin:Japan
Label:musicmine
これが真なる意味での青春パンク。以前までの激情系ハードコア/ブラックメタル/ハイパーポップ/インターネットカルチャーなどをマッシュアップしたような破滅的スタイルはあいかわらず踏襲されている。だが、本作では格段にメロディアスになり、リリックにも微かだけれども確かな暁光がみえてきた。「世界を滅ぼす」「壊れる」「殺す」「死ね」「くたばれ」「Fuck you」などという罵詈雑言は他者の否定ではなく、むしろ現代社会ではぐれモノが生存するための活路として、積極性をもって発せられる。
ところで、先日タワレコのフリーペーパーbounceを読んだら、本作が紹介されていたのだけれども、「POP」というジャンルが付けられていて思わず笑ってしまった。まさしくぴったりじゃないか。このケーキの切れない少年たちへの応援歌は、ヘヴィメタル・コーナーではなく、Pay money To my Painや椎名もたのそばにおかれるべきだろう。
「夢の旅路は押し付けられた競争倫理 ディズニーランドに解体される点と線、辺と円、尊厳、権利 猫動画と滝沢ガレソに踊らされるお前と俺」(『IAMFINALSATANIST』)
第 26 位
JJJ『MAKTUB』
Year:2023
Origin:Japan
Label:FL$Nation / AWDR/LR2
いうまでもなく、いずれのトラックも珠玉のクオリティだ。それも以前までのUSブーンバップのみならず、2stepやDrillなどのUK系ビートも取り揃えており、現代のラップミュージックの多様性をパッケージングしている。ここから、JJJの審美眼はさらにアップデートされていることが伺えるはずだ。
だが、それに乗せられる歌詞は対照的に、どうしようもなくわからない。なぜなら、JJJがこの6年間に募らせたパーソナルな葛藤があけすけに吐露されており、それらがあまりに具体的だからだ。彼の事情も感情も、とてもわかりようもない。その悲痛なことばが韻文として洗練され、ダンスミュージックとしての機能性を有しているのならまだいい。だが、『心(feat. OMSB)』『U(feat. C.O.S.A.)』『Something (feat. Campanella)』などの楽曲でみられるように、押韻の固さをかなぐり捨ててメッセージを優先する瞬間がたびたび訪れる。その瞬間にグルーヴは途切れて、音楽にすらなっていない感情が声として零れ落ちていく。こうした構造ゆえに本作の聴き心地はなだらかではないし、おのずと鑑賞者も、身体で直観的に聴くのではなく、彼の心に耳を澄ますような態度を取らざるをえなくなる。
本作は断じて傑作ではない。名盤でもない。そうした紋切り型の称賛はとてもじゃないが適切といえないのだ。それはおそらくJJJ自身がいちばんよく知っている。本作においてイニシアチブを握っているのは、天才トラックメイカー「JJJ」ではなく、ひとりのどうしようもない葛藤を募らせた青年「JJJ」なのだから。いわば、彼は「公」よりも「私」を優先した。あるいは、「音楽」よりも「散文」を優先した。せざるを得なかったのだ。
いちど完璧にできあがった構図(トラック)をみずから穢してしまうこと(作詞)がいったいどれほどの覚悟を必要とする行為か、とてもすべてではないが、ある程度までならわかるつもりだ。ぼくは彼に最大限の敬意を表する。
第 25 位
エドワード・ヤン『エドワード・ヤンの恋愛時代』
Year:1994
Origin:Taiwan
一癖も二癖もあるサブカル青年たちが台北で戯れる青臭い会話劇。『牯嶺街少年殺人事件』のようにクソガキどものバイオレンスを期待していたので、日常風景を監視カメラできりとったような奇を衒わぬ作風に拍子抜けした。現に中盤で20分ほどうたた寝してしまった。だけれど、今思い返すと印象的なショットを両手で収まらないほど挙げることができるので、ということは紛れもなく傑作なのだろう(凡作はたとえ鑑賞中は楽しくとも、映像の記憶がすぐ消えていくものだ)。しかるべき機会に再見したい。
エドワード・ヤンは都会の電光をバックに人間を映しているときがいちばん輝くね。スポーツ観戦のプロジェクターの光を浴びながら談笑するシーン、電話ボックスのシーン、自動車を後ろからダッシュで追いかけるシーン、夜のプールのシーンは本作のハイライト。もちろん冒頭とラストも。消費社会の加速、欧米化・日本化に対する愛憎が、彼の映像には美しく現れる。
第 24 位
仙人掌 & S-kaine『82_01』
Year:2023
Origin:Japan
Label: -
威勢のいい序盤もさすがの完成度だが、それぞれの人生模様がリリックに滲み出す中盤〜後半がより沁みる。
「先人の言葉、太く流す血液 過去のダサい自分との決別式(『UNDER THE MOON』より)
「晴れでも雨でも一人見上げたSky 街の灯はなぜかあまじょっぱい」(『OUR MUSIC』より)
第 23 位
藤本タツキ『ファイアパンチ(ジャンプコミックス)』
Year:2016
Origin:Japan
Label:集英社
復讐劇、宗教、英雄譚、映画のオマージュ、セカイ系、だとか本作を意味づけてみるならいくらでもできる。だが、このクッソ雑なコラージュ作品におそらく暗喩=深みを見出してはならない。考察とやらに埋没すること、それこそ作者の掌で踊ることにほかならないからだ。それこそ、一級品のジョークとして笑い飛ばすべきなのではないか。
第 22 位
出合小都美『スキップとローファー』
Year:2023
Origin:Japan
Label:P.A.WORKS
各々がかかえる等身大のコンプレックスに向き合い、それを癒していくための物語。
本作を見て思ったのが、登場人物がみな他者評価に怯えているということだ。同質の人間が一定数集まってしまえば、そこで相互評価の競争が始まってしまうのはいつの時代も変わらない。だが、SNSのせいで人間関係から離脱することが許されない現代では、抑圧はより強固になる。学力、コミュニケーション力、ルッキズム……。すべてを品定めされてしまう社会で、いかに信頼できる友をつくれるか。競争社会の外側は、等身大の葛藤の内側にこそあるのだ。
ジョン・ヒューズ『ブレックファスト・クラブ』が好きなひともぜひ。
第 21 位
Earth『The Bees Made Honey in the Lion's Skull』
Year:2008
Origin:US
Label:Southern Lord
ドゥームメタル、ストーナーロック、ドローンメタル、ポスト・ロック、まぁ呼び方は今更なんでもいい。要は、ブルース・ミュージックの曲解の究極系。
周知のように、アングロサクソン系によるブルースの解釈の歴史は、かつて「ロック」と呼ばれていた。本作が興味深いのは、明らかにハードロックやヘヴィメタルの面影を残していながらも、すでに「ロック」という枠内から逸脱してしまっている点にある。いわば、広義のミニマル・ミュージックやアンビエント、映画音楽のような聞き心地なのだ。アメリカ合衆国はそもそも歴史が短く、そこにおけるブルースは数少ない伝統文化といえる。それを彼らは材料にして、前衛的な空間芸術を制作しているのである。伝統の曲解にこそ、前衛は存在する。
本作は彼らのディスコグラフィにおいてとりわけメロディアスな作風であり、一種のヒーリングミュージックとして聞けてしまう。休日の午後3時くらいに、再生してみてはどうだろうか。それも、できるかぎり大音量で。