81. 佐藤嘉幸,廣瀬純 - 三つの革命 ドゥルーズ=ガタリの政治哲学
Release: 2017
Origin: Japan
Label: 講談社選書メチエ
初学者なのでドゥルーズの原著を当然そのまま読めるわけがなく、解説書の読解に頼っているのだけれども、そのなかでも最も刺激的だったのが本作。議論の濃密さゆえに、僕は本書ですら理解しかねる点を随所に残してしまったのだが、その点も含めて、今後長らく付き合っていくことになりそうな一冊である。
各著作の整理もさることながら、あとがき代わりに設けられたドゥルーズ哲学実践編(現代社会への適用)には度肝を抜かれた。彼等の思想は衒学的な机上の空論では断じてない。実践可能な戦術である。
82. SeeYouSpaceCowboy… - The Romance of Affliction
Release: 2021
Origin: US
Label: Pure Noise
If I Die Firstとも親交のある00年代スクリーモ/ポスト・ハードコア・リバイバル牽引者。元来は初期Cave InやNorma Jeanを思わせるメタルコア/カオティック・ハードコア・スタイルであった。断末魔じみた金切り声スクリームと不協和音まみれのギター、低~高速が神経症的にスイッチしていく曲構成。ヒステリックな世界観が根幹にある。しかし、徐々にクリーンボーカルの比率を増やしてゆき、2ndアルバムたる本作では、随分とキャッチー性も洗練されてきた。
彼等の凄みは新奇性ではなく、「古さ」の忠実な再現度にある。90年代末~00年代初頭のUSハードコア・パンク史を生き直すこと。歴史の遺産を表層的にかすめとるのではなく、深く模倣したからこそ、表現に含蓄が生まれていく。
83. セルジオ・レオーネ - ウエスタン(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト)
Release: 1968
Origin: Itary
ウエスタン(原題:Once Upon a Time in the West)という大仰な題名を自ら掲げるのにも納得の貫禄。寡黙ながら雄弁な「眼力」のドラマにして、一人の勇敢な女性を軸にアメリカ西部開拓時代の美醜をパッケージングした一大絵巻。
『夕陽のガンマン』『続:夕陽のガンマン/地獄の決斗』で見られたセルジオ・レオーネ監督の演出法はさらに先鋭化。弛緩と緊張を波打つように往復し、冗長さとリアリズムの狭間を綱渡るテンポ感が徹頭徹尾持続する。「ちょっとこのシーンダルくね?」とムズ痒さをふと抱いた瞬間に、神が降りてきたんじゃないかと見紛う超絶ショットや乾いた銃撃音がドカンと放り込まれる。エンニオ・モリコーネによる劇伴も映像に負けじと冴えまくり。残虐性と叙情性が矛盾せず共存するフロンティアの光景は、まさに彼無しでは有り得なかったろう。
中盤に間延びを全く感じなかったといえば嘘になるが、その分を差し引いたとしても、「マカロニ・ウエスタン」というジャンルの成熟の末に辿り着いた神話的スケールは何物にも替えがたい。冒頭のオープニング~駅前での銃撃戦、物語序盤の馬車移動シーン、終盤20分は、文字通り「奇跡」としか言いようが無いね。決して無傷では済まされなかったが、開拓は彼等の手によって果たされた。
84. スパイク・リー - ドゥ・ザ・ライト・シング
Release: 1989
Origin: US
スパイク・リー監督の18年作『ブラック・クランズマン』と比べてしまうと、流石に時代を感じるカメラワーク&編集。しかし哀しい哉、誰もが声を揃える通り、題材のアクチュアリティは何一つ錆び付いちゃいない。
空虚に響き渡るFIGHT THE POWERのリリックと共に、「マイノリティたる我々はマジョリティや他のマイノリティに敬意を払っていたか?」という難題を鑑賞者全員に問いかける。物語終盤のようなデモは現代にも絶えないし、それどころかSNSにより更に分断が加速してるとすら思えるのが何とも心苦しい。
映画として痺れたシーンは、ラジオ・ラヒームの突飛な振る舞いや、中盤のベッドシーンの艶やかさ、ピザ屋のマスターと息子の会話、序盤・終盤におかれた放水シーンの対称性など。物語の本筋から零れ落ちる箇所もいちいちおもしろい。ピザ食べたいなぁ。
85. SQUASH SQUAD - objet
Release: 2012
Origin: Japan
Label: BRAINSTORM MUSIC
近年のLootaとVito Foccacioはそれぞれソロ名義で活動しているために、このグループの名を存じぬ方も多いだろう。それはもったいない!US直輸入的なトラックに、SF的ボキャブラリとストリートの描写が重ね合わされた様は、まさに「サイバーパンク」の世界観そのもの!
2MCともにインテリサブカル的な文化知識の持ち主(別作品やインタビューでは「松尾芭蕉」「ドストエフスキー」「溝口健二」「エド・ウッド」「ミシェル・ウエルベック」などをネームドロップした)でありながら、知性派・文系ラッパーキャラでは売らず、アメリカンなスタイルに挑んだその姿勢にこそ特異性がある。日本語ラップヘッズのみならず、たとえば小説家:阿部和重のファンやSFファンにもぜひ一聴してほしいな。
86. Static Dress - Rouge Carpet Disaster
Release: 2022
Origin: UK
Label: Venn
彼等もまた00年代スクリーモ/ポスト・ハードコア・リバイバルを担う者の一人。「メタルコア」「Djent」などのムーヴメントを経て分厚くなりすぎた音像へのアンチテーゼだ。スクリームもバンド・アンサンブルも中音域で一体となり、耳がキンキンするようなパンキッシュ・サウンドへと変貌する!ギターはコードを掻き鳴らして音壁を作る一方で、リズム隊は変に加工せず、音の隙間を活かしてある。低音が気持ちいいくらいにスカスカだ、これだよこれ!サウンドプロダクションがまさに00年代初頭のそれであり、CD全盛期のノスタルジーを喚起してくれるのだ!
87. Stephan Micus - Nomad Songs
Release: 2015
Origin: German
Label: ECM
ECM Recordsはニューエイジ・ミュージック系もひっそりと扱っていたりするのだが、本作もその内のひとつ。ビートレスで奏でられる民族楽器、チルい。
88. スティーヴン・スピルバーグ - シンドラーのリスト
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00GQVTUW6/ref=atv_dp_share_cu_r
Release: 1993
Origin: US
経済活動のうちには反差別が潜んでおり、時として徹底的な実利主義は「正義」に反転してしまうのだと示唆する、スピルバーグ流の人間譚。キリスト教的道徳をベースにした名作映画『素晴らしき哉、人生!』への最良の返歌ではなかろうか。
遺作のような威厳に満ち満ちているのに、これはスピルバーグ監督第二の黄金期の序章でしかなく、以降も盟友:ヤヌス・カミンスキーと新作を爆速で撮りまくることになる……という事実がにわかに信じがたい。
Release: 2017
Origin: Japan
Label: Columbia
サティのピアノ曲録音をいくつか聴いたが、本作が一番好き。
90. Tallah - The Generation of Danger
Release: 2022
Origin: US
Label: Earache
縦方向にバウンドする強靭なグルーヴと、上ずった声で捲し立てる早口スクリーム!現代メタルコア/マスコアの機械的演奏力が備わっていながらも、ギターばかりが先行せず、あくまでリズム隊の妙味で攻めていくスタイルに好感を覚えた。
91. 天竜川ナコン - 現実 実況プレイ ~キムチ鍋攻略~
Release: 2021
Origin: Japan
ごくありふれた日常生活での哲学の実践。「結局○○だよなぁ?」の口調が特徴の説法に何度感嘆したことか。
Release: 1973/2014
Origin: US
Label: 新潮社
現代文学を代表する大長編であり、あらゆる地域や分野を下ネタと差別用語で串刺しにしたカオティックな旅行記。そして一人の男:スロースロップをめぐる英雄譚。物語の全体像や登場人物の関係性をほぼ把握できず「読めた」とは言い難いのだが、十分楽しみながら全頁に目を通すことができた。それもひとえに、湯水のごときウンチクの羅列と素っ頓狂なコメディ描写のおかげだ。枝葉末節の描写ぶりがたまらなくおかしい!全編一貫して汚いけど精緻な、風景の色彩感覚の豊かさにも目を見張る。
執筆当時は1973年。思想はポストモダン、音楽はプログレやモータウンで、社会はベトナムから米軍撤退って時期。そんな時代に、陰謀論という題材により、世界の全体性を己の筆一本で描かんとする。この究極の蛮勇には脱帽するほかない。
93. Thoughtcrimes - Altered Pasts
Release: 2022
Origin: US
Label: Pure Noise
惜しくも解散してしまったマスコア・レジェンドThe Dillinger Escape Planの元メンバーによる新バンド。いざ聴いてみたら、ほぼやってること変わんねェじゃねえか!ありがとう!The Dillinger Escape Planがやらんとしていたことって要は、プログレッシヴ・ロック/フリージャズ/ドリルンベース/IDMなどの奇天烈音楽を「ハードコア・パンク」のフィルターに通し、シンプルなアンサンブルで今一度演奏してみる試みだったわけだが、それは新規バンドになっても変わらない。ハチャメチャに弾け飛ぶ演奏とゴス/アンビエント的電子音がグラデーションのように違和感無く移り変わるのに驚かされる。
94. 塚本晋也 - 野火
Release: 2015
Origin: Japan
この監督の出世作『鉄男 TETSUO』の鑑賞時も思ったことだが、なぜここまで無茶苦茶なエネルギーを画面に収めることができるのだろう。
95. Underoath - Voyeurist
Release: 2022
Origin: US
Label: Fearless
USスクリーモ/メタルコア・シーンの古豪の新譜はなんと、電子/空間音響系のアプローチを大幅に導入し、ゴス・ラッパーGhostemaneを客演に迎えた、挑戦的な一作に仕上がっている。もはや「ポストメタル」「インダストリアルメタル」の変種、Deftones・Nine Inch Nailes・Cult of Luna等の系譜に連なるサウンドに転向しているといっていい。
クリスチャニズム、空間音響系のキーボードワーク。おおよそ身体的な快楽を追究する傾向にある「メタルコア」「ポスト・ハードコア」「スクリーモ」などのジャンルの中核に位置しながら、抽象的な美意識を思索しつづけること。現在、メタルコアがシューゲイザーやアンビエント等と難なく融合できているのも、彼等の功績あってのことだと忘れてはならない。同ジャンルがめざましい音楽的発展を遂げている今、先駆者の再評価をしてみるのも悪くはないだろう。
Release: 2008
Origin: Japan
Label: ハヤカワ文庫JA
「大風呂敷」という言葉がまさに似つかわしい一冊。牽強付会に映る箇所がないといえば嘘になるが、 日本国内の作品をザッピング的に接合し、ひとつの地平を捏造してみせる熱量には畏れ入った。零れ落ちてしまった論点の再検討も含め、まだまだ有効性を失っていない一冊だろう。
彼は宮台真司・東浩紀フォロワーとしてオタク論壇に姿を現わしたわけだが、大衆分析に優れた前述の二人よりも、佐々木敦先生にも通じる固有名詞のマッピング能力に優れた書き手であるように思う。WEBマガジン「遅いインターネット」を根城とした現在の活動も興味深いが、僕としては同人誌時代のPLANETSをもっと読んでみたい。
97. Void of Vision - Chronicles II: Heaven
Release: 2022
Origin: Australia
Label: UNFD
メタルコアといえばアメリカが生んだ音楽ジャンルとして知られているが、現在同ジャンルで尖鋭的なサウンドを提示しているのは、イギリス、フランス、そしてオーストラリアのシーンであろう。オーストラリア・メタルコア・レーベルUNFDは毎度本当におもしろいバンドを輩出してくれる!
彼等は最初、ニューメタルコアのニューカマーとして頭角を表した。弦楽器の分厚い轟音を、重心の低いドラムとラップ調のスクリームでパワフルにブン回す。近年はそれに留まらず、インダストリアルやドラムンベース、ゴスなどの電子的/耽美的アプローチにより表現の幅を拡げ、着実に独創性を磨きつつある。これからの成長が楽しみで仕方がない。
98. 若松孝二 - 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)
Release: 2008
Origin: Japan
後学のために観てみたら、これが青春映画として高クオリティであるし、さらには劇判はJim O'Rourkeという、低予算ながら気骨入りまくりの力作。ラストシーンには僕もつられて涙ぐみました。
99. ヴァルター・ベンヤミン - 複製技術時代の芸術
Release: 1936/1970
Origin: Germany
Label: 晶文社
「アウラ」でおなじみの、いかにも厳めしい名前をした芸術論の古典でありながら、いざ開いてみたら小ぶりなエッセイ集で存外読みやすい。だからといって一読してすっきりする内容かといえばそうでもなく、やはり20世紀以降の時代に文化を語るのならば、マルクスの存在は切っても切り離せないのだと、大きな宿題を残されたような想いだ。2023年は『資本論』原著&解説書を通じて、本書の問題提起への理解を深めたい。また、『ジル・ドゥルーズ - シネマ』にマルクス主義的読解を施した廣瀬純の著作も関連して読んでみたい。
100. 米田和弘 - Do It Yourself !! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B69QMT2C/ref=atv_dp_share_cu_r
Release: 2022
Origin: Japan
Label: PINE JAM
2022年秋アニメは歴史的豊作であったが、本作はそのダークホースとして密かに注目を集めていた。とにかく音楽周り、劇伴はもちろんのこと、OP『どきどきアイデアをよろしく!』・ED『続く話』が珠玉の出来なのだ!前者はポスト星野源・髭男的ファンク・ナンバー、後者はmùmを思わせるポストロック/フォークトロニカ。オリジナル版はもちろん、シングル盤に収録されている『どきどきアイデアをよろしく Funk Mix』『続く話 Kawaii Mix』も負けず劣らず素晴らしい。
【PREV】