カヤマのブログ

【No.1〜20】カヤマ・2022年遭遇作品100(新〜旧作 音楽/映画/書籍etc...)

1. a crowd of rebellion - ABANDONSYSTEM__

Release: 2022

Origin: Japan

Label: Warner Music Japan

アニソンめいた爛漫さを隠さないハイトーン・ボーカル、日本語詞によるスクリーム、月刊少年ガンガンを想起させる厨二病的言語感覚のリリック。海外発メタル・ジャンルを本邦の少年漫画的な世界観へと翻訳するという、かつてV系が担っていたであろう役割を現在最前線で試みているのが彼等だ。邦メタルコアのニューカマーと歓迎されたのも久しく、現在では結成15周年の中堅として着々とメロディーの切れ味を研磨している様子。

今年発表のEPに収録された、デュエル・マスターズ プレイスへの提供楽曲『ZENITH』が珠玉の完成度なのだ!「鵬翼」「狂炎」「虹霓」「不死鳥」などの熟語がキャッチーなメロディーと共に乱舞する様に、ゼロ年代Dir en greyの面影を見る。ニューメタル・リバイバルの潮流やヒップホップとのクロスオーバーによって、邦ラウドロック・シーン全体がスポーティーな方向性に傾斜しつつある今、頑固に叙情性で一本勝負する姿勢を崩さない。頼もしい!

 

2. アッバス・キアロスタミ - 桜桃の味

https://watch.amazon.co.jp/detail?gti=amzn1.dv.gti.7cbc6ac6-b74b-7faf-acd3-ddefd7d8ef79&territory=JP&ref_=share_ios_movie&r=web

Release: 1997

Origin: Iran

とある自殺志願者の特別でもなんでもない一日の一部始終。木々や砂利、自動車や労働者、道路が理由もなくただそこにある。ただ、写されてしまう。映画について専門性をもって語り得るだけの経験が筆者にはないのだが、それでも、撮影という行為がもたらす救済とはこれなのかもな、と感嘆した。

 

3. 阿部和重 - Orga(ni)sm

Release: 2019

Origin: Japan

Label: 文藝春秋

著者のライフワークである「神町トリロジー」シリーズの最終章なのだが、そうと知らず最初に触れてしまったとさ。しかし、本作を単体で読もうと支障はなく、映画を中心としたサブカルチャー知識とスラップスティックな描写、虚実入り乱れるいかがわしき冒険譚として十分堪能できる。

今年は著者の『アメリカの夜』『インディヴィジュアル・プロジェクション』『ニッポニアニッポン』『シンセミア』『映画覚書 vol.1』など、初期の代表作も読了したけれども、結局本作が一番気に入っている。作家としての集大成感。

 

4. AFJB - AFJB

Afjb

Afjb

  • AFJB
  • ロック
  • ¥2444

Release: 2022

Origin: Japan

Label: -

ゼロ年代再興をあらゆる手段で試みていたラッパーJUBEEがハードコア・バンドAge Factoryとコラボレーション。なんて甘美なノスタルジアだ!アルバム全体がTHE MAD CAPSULE MARKETSメロコア×インダストリアル)とDragon Ashミクスチャー・ロック)へのラブレターじゃないか。しかし、単なるオマージュであると断ずるには、JUBEEのフローはゼロ年代初頭当時の水準と比較して、どう考えてもタイトに研ぎ澄まされ過ぎている。全体として懐古主義的な作風なのだが、それゆえに、バンド・シーンおよび日本語ラップ・シーンがこの20年間に培ってきた基礎体力を証明する。JUBEEのラップが入るたびに感慨で涙が溢れそうになっちゃうよね。

 

5. András Schiff - Johann Sebastian Bach: Six Partitas 

Release: 2009

Origin: Hungary

Label: ECM

バッハの曲のどことない可愛らしさ。

 

6. 浅田彰 - 構造と力―記号論を超えて

Release: 1983

Origin: Japan

Label: 筑摩書房

ニュー・アカデミズムを巻き起こした80年代の象徴的ベストセラー。固有名詞の羅列に若干たじろぎつつも、執拗なまでに反復される主題に身を任せていれば、いつのまにか通読してしまえるという不思議な書物だ(そして文脈が脳内にインプットされている!)。また、彼の発する威勢の良いアジテーションにも心酔してしまった。一端の初学者としてはとてもお世話になりました。

「同化と異化のこの鋭い緊張こそ、真に知と呼ぶに値するすぐれてクリティカルな体験の境位(エレメント)であることは、いまさら言うまでもない。簡単に言ってしまえば、シラケつつノリ、ノリつつシラけること、これである。」

「ワイズになるのではなく、常にスマートでなければならない。スマート? 普通の意味で言うのではない。英和辞典にいわく「鋭い、刺すような、活発な、ませた、生意気な」。老成を拒むこの運動性こそが、あなたの唯一の武器なのではなかったか? これまでさまざまな形で語ってきたことは、恐らくこの点に収束すると言っていいだろう。速く、そして、あくまでもスマートであること!」

「ケージの小鳥たちの歌が森の歌ではなく、グールドの高度なスタジオ録音が都市の歌ではないということを忘れないようにしよう。《クラインの壺》の中で、森は都市となり、都市は森となる。けれども、そのプロセスで、キノコの生え育つ森とハイパー・テクノポリスの間にキアズマが生ずるとき、一瞬、あたりは今まで見たこともなかったような砂漠へと姿を変えるだろう。この砂漠こそ、ケージの砂の小鳥たち、グールドの音の分子たちが舞いおどる、広大なプレイグラウンドだったのだ。」

ちなみに、浅田彰氏の批評文はWebでいくつか無料で読めたりする。

彼は長らく著作を発表していないが、劇評・映画評などをあちこちで執筆しており、講演活動にも精力的だ。それが彼なりの美学であることも重々承知の上でいうのだが、後追い世代の人間としては、それらを固めて一冊の本にしてくれればいいのにと心底思う(今から資料収集するのは大変すぎる!)。

 

7. 浅香守生 - カードキャプターさくら クリアカード編

https://www.netflix.com/jp/title/70309056

Release: 2018

Origin: Japan

Label: マッドハウス

伝説的少女漫画作品のリバイバル作。すべての序章となる『クロウカード編』、丁寧な恋愛描写の駆け引きが見られた『さくらカード編』に比べるとさすがに若干勢いは大人しく、手堅くまとまった「後日談」「ファンサービス」的な趣が強いのだが、それでもやはり抜群におもしろい。桜ちゃん・李くんの恋愛模様を一歩引いて見守り続ける大道寺知世さんの崇高さよ。

 

8. オーギュスト&ルイ・リュミエールリュミエール兄弟)、ティエリー・フレモー - リュミエール

Release: 2016

Origin: France

シネマトグラフ(映画装置)開発者:リュミエール兄弟による作品、怒濤の108連発。ただでさえみっちり高密度なのに、解説ナレーションが映像のドラマ性や撮影ロケーションのトリビアをひっきりなしに語り続けるのだから、とんでもない情報量。映画史のエキスを脳髄に直接注入されるような体験にへっとへと。(漫画『鋼の錬金術師』内の「真理の扉」に入ったときの気分も恐らくこんなだろう。)だが、幸せな疲労感だ。

思ったこと…

■ 映画は庶民の生活模様を映すところから始まった。……ん?ということは、SNSに投稿されるストーリーやYouTubeなんかも「映画」なのか?2022年の今、何を以て「映画」は定義付けられているのか?映画への理解を深めるつもりだったのに、ますます映画がわからなくなったぞ!

ジミ・ヘンドリックスエレキギターという楽器で出せる音を一人でほぼ表現し尽くしてしまったと語られている(機材は日々進化しているから、そりゃ胡散臭い話だとは思うが)。しかし、リュミエール兄弟に関しては、そう語ってしまっても過言じゃない。煙や動物、子供、乗り物、街並みなどのあらゆる被写体や、食事、労働、踊り、スポーツなどのあらゆるアクション、逆再生、空撮などのあらゆる撮影方法に手を付けていた。なにより、黒澤明的な動物&水&煙のスペクタクルが黎明期にあったということが驚きだ。映画技術がすごいのか、それとも地球の美しさは普遍ということか。

■ 撮影者の意図の有無に関わらず、何かを撮ってしまった時点で、フィルムに政治性・歴史性は宿ってしまう。「記録」という行為は想像を遥かに超える力を持つ。情報消費の早いSNS時代では忘れがちだけど、大事なことだよね。

 

9. Beabadoobee - Fake It Flowers

Fake It Flowers

Fake It Flowers

Release: 2020

Origin: Philippines

Label: Dirty Hit

かねてより「UKオルタナティヴ・ロックの後継者が現れた」と評判は耳にしていたのだが、SUMMER SONIC 2022を機に遅ればせながら彼女のリスナーに仲間入りすることになった。Beabadoobee本人+バックバンドの雰囲気を生で拝見して印象的だったのが、風通しのいい雰囲気だ。90年代のオルタナ現行世代では、女性がロック・ミュージックを演奏する行為それ自体にある種の色眼鏡がかけられていたはず(Sleater-Kinney・PJ Harvey・holeなどに代表されるフェミニズム・ロック・アーティストの活躍こそその現れだろう)。しかし、彼女達はごく自然体の、楽しげなヴァイブスでショーを見せてくれた。その振る舞いは、かつてのアーティストの功績があってこそ。ロック・ミュージシャンであるべき社会的カテゴリというステレオタイプが解体されたがゆえの換骨奪胎。

 

10. Black Magnet - Body Prophecy

Body Prophecy

Body Prophecy

  • Black Magnet
  • メタル
  • ¥1528

Release: 2022

Origin: US

Label: 20 Buck Spin

昨年末はAtari Teenage Riotに狂っていた覚えがあるが、このアルバムはまさにそんな僕への贈り物だ。重い!硬い!速い!残虐なのにキャッチー!Code Orange・Liturgy・Blud Aus Nord・Bliss Animal・The Berzerker・Strapping Young Ladなど、インダストリアル×エクストリーム・メタルの融合は今まで多くの先行研究が試みられてきたわけだが、本作はそれが結実したひとつの到達点でもあるだろう。メタル・サウンドに電子的アプローチを施すのは今や奇想ではなく、ごくあたりまえの武装行為!本作の目的も音響的実験ではなく、轟音による中央突破である!このバンドが電子音楽実験音楽ではなく、著名なデスメタル・レーベル20 Buck Spinに所属していることからもその姿勢が窺えるはずだ。ところでなんだが、デスメタルの古豪がインダストリアルに挑戦した挙げ句、非難囂々になった珍作『Morbid Angel - Illud Divinum Insanus』も再評価の余地があると思うのだけど、さてどうだろう?

 

11. Brian Eno - FOREVERANDEVERNOMORE

Release: 2022

Origin: UK

Label: Universal Music Catalogue/Opal/Verve

UK音楽界きっての謎人物が久々にアルバムリリースしたかと思ったら、やっぱり内容も謎めいていた。気候変動への問題意識が反映されたのか、若干スピっちゃってる荘厳さが全編を覆う!『Ambient1』『Ambient2』などで麗らかな響きを振り撒いていたピアノの音はかなり禁欲されており、電子音響にとって醸し出される不穏なアトモスフィアは、過去作品でいうと『Apollo』を思わせる。Son Luxなど、近年の前衛的ロック・バンドの源流には彼がいたのだと再確認させてくれる点も興味深く、繰り返し聴き込みがいのある作品に仕上がっているのでは。いろいろな方の本作に関する批評を拝見してみたいね。

 

12. C.O.S.A. - Cool Kids

Cool Kids

Cool Kids

  • C.O.S.A.
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2139

Release: 2022

Origin: Japan

Label: SUMMIT

2022年の音楽作品のなかでも、最も歌詞に感銘を受けたのは本作だった。ラッパーとしての現在の意気込みから過去の記憶までが、赤裸々に吐露される私小説。全曲がなだらかに繋がってひとりの人間の心情を繊細に描く構成となっており、実質「コンセプト・アルバム」と見做してもよいだろう。アルバム前半はメロウなトラックに乗せて少年時代の情景や愛人へのメッセージが、後半はラップ・シーンや日本社会についての想いが口ずさまれる。このアルバムには、個が外界へと開かれていく過程が綴られているのだ。トラックもメロウなブーンバップからUK系まで幅広く、客演ラッパーも多数参加しているのだが、それらはすべてC.O.S.A.の心象世界の一部として溶け込んでいるのだから驚きだ。

SEEDA - 花と雨』『Jinmenusagi - LXVE 業放草』『ACE COOL - GUNJO』を聴いたときの感覚を思い出した。それから、「最も個人的なことが最もクリエイティブなことである」というマーティン・スコセッシ監督の言葉もだ。

 

13. Carly Rae Jepsen - The Loneliest Time

Release: 2022

Origin: Canada

Label: School Boy/Interscope

Lady Gaga・Beyoncé・Rosalía・Charli XCX・Rina Sawayama・FKA Twigsなど、今年は各々の立場から人々をエンパワーメントする女性シンガーたちの新譜が数多くリリースされた一年間でもあった。だが、その潮流にひっそり混じっていたCarly Rae Jepsenの存在を忘れてはならない。リスナーを揺さぶる強烈なメッセージ性はない。出生地に由来した音楽的実験性もない。それなら話題にならないのも仕方がない。愛嬌のあるシンセ・ポップ・サウンドに乗せてユートピアを描きつづける彼女の姿は、ある意味で反時代的とすらいえるだろう。しかし何故だか、シリアスに気張るのに疲れてしまったというか、この甘ったる~い世界観に救いを見出してしまう僕がいる。ヒット・チャートがこんな音楽ばかりでは困るが、こんな音楽がひとつはなきゃ困る。ジェンダー・人種間の不平等を告発するアクティビストたちにも最大限の敬意を称したうえで、でもやっぱり「Carly Rae Jepsenが好き!(永野)」と宣言させてください。本作の曲が街中で、たとえばショッピングモールや洋服店で流されてほしいと、ひとえに願う。

 

14. Charli XCX - CRASH

CRASH

CRASH

  • チャーリー・エックス・シー・エックス
  • ポップ
  • ¥1833

Release: 2022

Origin: US

Label: Asylum

Hyperpopの先導者から80年代リバイバルへ。しかし、元来キッチュなクラブ・ミュージシャンであった彼女がそう簡単に大人しくなるわけがないだろう?「パコーン!!!パコーン!!!」とやかましすぎるスネア・ドラムと分厚いシンセサイザー・リフで彩られた、豪華爛漫&ケバケバなダンス・ナンバーづくし。さぁ踊り狂え!そのハジけぶりを中和するかのように数曲差し込まれたUK Garageナンバーおよびエモラップ・ナンバーも快作であり、ダンスミュージック全般への深い造詣を窺わせる。彼女の音楽が初めての方々もぜひ本作からどうぞ。

 

15. クリント・イーストウッド - マディソン郡の橋

Release: 1995

Origin: US

アメリカ映画史の生き証人、クリント・イーストウッド監督・主演の恋愛映画。御周知の通り、彼の主戦場は西部劇や英雄譚であって、このジャンルを手掛けるなんて物珍しい。だから「どれほどのものかな?」なんて試す心持ちで触れてみたら、エンドロールで感嘆してしまった。

イーストウッドは一貫して「アメリカ合衆国の善悪」を背負う大作に出演し、自らも撮り続けているが、本作はそこから遥か離れたアメリカ郊外でのパーソナルな物語だ。おかげでいつになく牧歌的な雰囲気に包まれている。植物の瑞々しい緑とフランチェスカ(演:メリル・ストリープ)の髪や土の茶、建物や家具の白、それから陽光や稲穂の黄金色に彩られた画面はまるで天上世界のよう。しかし、他のイーストウッド監督作品と同様に「善悪の闘い」はそこにあった。とある一人の人間の夢と現実、個人と社会、欲望と理性、そして「女」と「母」の間での葛藤。

 

16. CVLTE - CHAPTER II: TOKYO INSOMNIA

Release: 2022

Origin: Japan

Label: F.C.L.S.

2022年現在、僕が本邦で最も関心を寄せている音楽アーティスト。北海道に拠点を起きながら、グローバルなエモラップ・シーンと国内ラウドロック・シーンふたつの最先端で活躍しているバンドだ。バンド・シーンの「エモ」とラップ・シーンの「エモ」を統合し、さらにはあらゆるクラブミュージックの要素を導入していくこの試みは、全世界を見渡しても特異なものだろう。

メロウな作風の前作EP『CHAPTER I: MEMENTO MOLLY』から一転し、アグレッシヴなバンドサウンドと電子的アプローチをより強調した作品に仕上がっている。日本語・英語のバイリンガル・リリックもより研磨されており、二言語がなめらかに繋がっていく様に感服する。演奏はもちろん、歌唱法にも革新性を見出せるのが彼等のサウンドなのだ。

 

17. デイヴィッド・ベニオフ & D・B・ワイス - ゲーム・オブ・スローンズ

Release: 2011-2019

Origin: UK

10年代を代表する世界的映像コンテンツ。海外ドラマの完走体験はおそらくこれが最初で最後になるだろう。確かに面白かったがいかんせん長すぎてこっちのモチベーションが追いつかない!新規鑑賞の方々はシーズン1~5は重要話のみ、シーズン6から集中的に観るのをおすすめします。

 

18. デヴィッド・グレーバー - ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論

Release: 2018/2020

Origin: US

Label: 岩波書店

大衆の尊厳を奪う上に社会的好影響を一切生まない「クソどうでもいい仕事」に死を!現代社会の存続に必須なはずが冷遇状態に置かれている「クソ仕事(エッセンシャルワーク)」に救済を!定価4,000円の専門書ながら刊行時は話題書となったのは、人文系エッセイ・ビジネス書のどちらとしても読めてしまう射程の広さゆえだろう。労働者たちが歯がゆい体験談を吐露していく序盤~中盤から、「新自由主義は権力を保持する一種のイデオロギーである」と喝破してみせる終盤に繋がってゆく。『負債論』『官僚制のユートピア』などの彼の過去作はもちろん、マルクスウェーバーもちゃんと読まなきゃなぁという気にさせられました。

 

19. デヴィッド・リーン - アラビアのロレンス

https://www.netflix.com/jp/title/70012020?s=i&trkid=13747225&vlang=ja&clip=81067050

Release: 1962

Origin: UK

まず、画面が真っ暗なまま劇判が流れ続ける導入部があんまりに長くてワロタ。大作主義ぶりもここまで徹底する!?

砂漠を映すという行為は本作の影響から逃れられない。たとえそれが映画でも、アニメでも、ドキュメンタリー番組でも。画面の横幅いっぱいに拡がる地平線、色づく「黄土色」「白」「青」のコントラスト。砂漠は人間の立ち入れぬ環境ゆえに自然色しか存在しないわけで、夕日や焚火、戦火の「赤~橙色」がより際立つ。ロレンスは白い民族衣装に身を包み、黄色い砂を全身で受け止め、心だけではなく容姿も砂漠に同化していく。この色彩設計がシンプルながら目を見張るほど美しく、そしてこれだけでも物語を視覚的に語りつくしているのだ。ついでにいうと、終盤の兵士がごちゃっとした画面造りは『戦場のカメラマン』っぽくもある。戦争による負傷者の描写も後続に影響大ということか。

主人公:ロレンスは人として幼く不安定な、かなり頼りない人物なのだが、そこに甚く共感をおぼえた。落ち着きがないナルシストであり軍人としては不適格だが、扇動者としては大胆かつ弁の立つカリスマだ。アラブの民に対して「友」や「兄」のように振舞えたからこそ成し遂げられたことと、責任を背負う「父」にはなれなかったから達成できなかったこと。ロレンスの振る舞いはすごく今っぽいなーと素朴に思ってしまうよね。

ところで些細な点なのだけど、食事シーンには特別なカタルシスがなく、水を飲むシーンの方がずっと感動的に撮られていたのが気になった。井戸から汲み上げた水や、氷をたっぷり入れたレモネードがほんとうに美味しそうだ。これも砂漠という環境の特殊性を強く印象付ける。

 

20. demxntia - Psychosis

Release: 2022

Origin: US

Label: -

CVLTEとも共演経験のあるエモ・ラッパー/R&Bシンガー。シーンの動向にあわせてスタイルを徐々に変えてゆきながら、大量の音源を現在進行形でドロップし続けている多作家である。彼の活動はエモ・ラップというジャンルの一貫性/柔軟性、これら双方の体現ともいえよう。本作はジャケットイラストにギターが描かれていることから窺えるとおり、生のギターサウンドをフィーチャーした一作。エモ・ラッパーのバンドサウンド化の潮流に、ついに彼も応答するとは!オートチューンボイスとアルペジオの音色はどうしてこうも好相性なのだろう。

 

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